大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和30年(ラ)10号 決定

抗告人 東邦建物無尽株式会社 代表者代表取締役 三品尚起

相手方 村井富美子 村井乙比古

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は、原決定を取消し、更に相当の裁判を求めると謂うのであり、その抗告理由は別紙記載の通りである。

本件記録及び松山地方裁判所昭和三〇年(モ)第一五一・一五二号建物収去命令等申請事件記録によれば、相手方両名は大西武雄との間の松山地方裁判所昭和二八年(ワ)第一七八号建物収去土地明渡請求事件の執行力ある判決正本に基き、同裁判所に対し建物収去命令等の申請をなし、同裁判所は昭和三十年八月十二日原決定添付目録記載の建物(以下本件建物と称する)につき収去命令を発したこと、相手方等は右建物収去命令に基き松山地方裁判所執行吏に委任して本件建物収去の執行に着手したこと、ここにおいて抗告会社は、本件建物については抗告会社の右大西武雄に対する債権の担保として昭和二十三年十一月二十四日抗告会社のため抵当権が設定されていること(同年十一月二十九日登記)を理由として右強制執行に対しいわゆる第三者異議の訴(松山地方裁判所昭和三一年(ワ)第五六号)を提起すると共に、原裁判所に対し前記強制執行停止の申立をなしたところ、原裁判所は右申立を理由がないとして却下の決定をしたこと並に前記判決は、相手方両名の先代村井久次郎より昭和二十二年頃同人所有の土地を賃借し該地上に本件建物を建築所有していた大西武雄が右土地賃料支払義務を履行しなかつたため、昭和二十八年三月二日右土地賃貸借契約が解除により終了したことを理由として、右大西武雄が前記久次郎の相続人である相手方等に対し本件建物を収去してその敷地を明渡すべきであることを命ずるものであること明らかである。

仍て考察するに、強制執行につき第三者が異議の訴を提起した場合受訴裁判所は異議のため主張した事情が法律上理由ありと見え且つ事実上の点につき疎明があつたときは、申立により判決をなすに至る迄保証を立てさせ若しくはこれを立てさせないで強制執行の停止を命じ得ることはいうまでもないところであるが(民事訴訟法第五百四十九条第四項第五百四十七条第二項参照)、右異議のため主張した事情が法律上理由ありと見えるか否かは結局その第三者が強制執行の目的物につき所有権その他目的物の譲渡若しくは引渡を妨げる権利を主張しているか否かにかかるものであるところ(民事訴訟法第五百四十九条第一項参照)、抗告会社がその主張の如く昭和二十三年十一月二十四日前記大西武雄に対する債権の担保として本件建物につき抵当権の設定を受け且つその日時が本件建物の敷地についての土地賃貸借契約が終了するより以前であつたとしても、抵当建物の存する土地についての賃貸借契約が土地賃借人の義務不履行により解除された以上土地所有者は土地賃貸借の終了を地上建物の抵当権者に対しても対抗することができ、土地所有者が債務名義を得て建物収去土地明渡の強制執行をして来た場合建物の抵当権者は右強制執行を阻止することができないものと解するを相当とするから、本件建物につき抵当権を有するとの抗告会社の主張は、強制執行の目的物につきその譲渡若しくは引渡を妨げる権利の主張には該当せず、従つて民事訴訟法第五百四十七条第二項にいわゆる「異議のため主張した事情が法律上理由ありと見える場合」に該らないものと謂わなければならない。(尚附言するに以上の如く解するにおいては一見建物の抵当権者の保護に欠けるところがあるように見えるけれども、凡そ借地上に存する建物につき抵当権の設定を受けた者は、借地人の土地賃料不払等賃貸借契約上の義務不履行により土地賃貸借契約が解除されることがあり得ることは当然これを予期しなければならないことであり、他方土地所有者は土地賃借人との間の賃貸借契約が解除により終了した以上引続き建物を所有して該土地を占有している従前の土地賃借人に対し右建物を収去して該土地の明渡を求める権利を有するものであるから、建物の抵当権者は土地所有者と特別の約定を結んでいる場合は格別然らざる限り右建物収去を受忍せざるを得ないものと謂わなければならない。蓋し建物抵当権者は該建物の敷地の所有者に対する関係においては建物所有者の有する権利以上の権利を享受すべき理由がないから、建物所有者がその敷地を占有し得る権原を有せざるに至つたときは、建物抵当権者もまた土地所有者に対しては該建物の収去を拒み得なくなることは己むを得ないところである。)

これを要するに、抗告会社が前記強制執行に対する異議のため主張する事情は法律上理由があるとは見えないから、原裁判所が本件強制執行停止申立を却下したのは蓋し相当であつて、本件抗告は理由がないと謂わなければならない。仍て民事訴訟法第四百十四条第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用して主文の通り決定する。

(裁判長判事 石丸友二郎 判事 浮田茂男 判事 橘盛行)

12 抗告理由

原審は抗告人の為したる強制執行に対する第三者異議の訴に伴う執行停止決定申請をその理由なしとして却下せられたるも抗告人は本件申請の対象である家屋収去命令の執行が申請人の件外大西武雄に対して有する抵当権の設定後数ケ年の歳月を閲したる後に生じたる事由に基く相手方らと件外大西間の賃料不払を理由になされたる家屋収去を命ずる旨の判決に因り為さんとする執行にして抗告人の抵当権に侵害を与うるものなりとの理由の下に停止決定を仰がんとしたるに原審は之を法律上理由ありと見えずとの事由を以て却けられたるがそは判決の確定力支持に急ぐの余り意を尽さざる判断にして抗告人のよく咀嚼し得ざるところなりと思料するのみならず斯くの如きは執行異議乃至停止に関する法令の字句に拘泥し律意の解釈を誤りたる違法の裁判なり。且又斯る軽挙の裁判をうくるに於ては独り抗告人のみならず不動産を担保と為し金融を営める業者の蒙る損失図られざるものあり確定裁判の効力の尊厳至重に対しては抗告人と雖も之に左袒するに吝かならざるもさりとて本件の如き急遽の事態を眼前にしながら之を看過する能はざるものあり茲に民事訴訟法第五百五十八条に則り即時抗告を為す所以である。よろしく御賢察を賜り申立の趣旨通りの御裁判相仰ぎ度本抗告に及ぶものであります。(大審院昭和二年(ク)第三八四号昭和二年八月六日第三民事部決定)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例